急 性 腎 不 全

急性腎不全とはどういう状態か
急性腎不全とは腎機能の急激な低下、喪失によって生体の内部環境の恒常性が保たれなくなった状態という事が出来ます。病気といわずに状態という言葉を使ったのは、急性腎不全はコレラとか肺結核などという一つの原因があっておきてくる病気と違い、原因は何であってもとにかく腎臓の働きが低下し、体内の老廃物を排泄しきれない場合に使う診断名だからです。慢性腎不全という診断名もこれと同じで腎機能が次第に低下して、生体の内部環境の恒常性を維持できなくなった状態をいっています。それでは、急性腎不全と慢性腎不全の区別はどこにあるのでしょうか?
その一つは時間的な要素で、急性の場合は数時間より数日の経過で腎機能の極端な低下が起きるのに反し、慢性の場合は数ヶ月より十数年にわたって徐々に機能低下がおきるのでその区別は明瞭です。しかし、その他もう一つの重要な相違があります。それは可逆性、しわいる腎不全の状態がもとに戻るか否かの相違で、急性腎不全というと、もとにもどる腎不全と考えるし、慢性腎不全というと、もとにもどらない腎不全と了解します。この区別はきわめて大切です。もちろん急性腎不全のなかにも皮質壊死のように、もとにもどらないものもありますが、これはむしろ例外的といってよいでしょう。

急性腎不全を分類すれば
急性腎不全ははじめにも述べたように色々な原因によって発生しますが、ころを整理してみると、まず障害される部位によって分ける事が出来ます。腎前性、腎性、腎後性の三つがそうです。これらの各々について簡単に説明します。

  1. 腎前性急性腎不全
    腎前性急性腎不全とは腎臓自体に異常はないが、血圧が低下したり、循環系に異常が生じたりしたため、腎機能が発揮されなくなったもので、輸血や輸液をして血圧を上昇させたり、昇圧剤を用いてショックの状態より脱却させると利尿がついてくる一過性の急性腎不全をいっています。しかしこのような腎前性のものもしばらく放置しておくと、やがて腎臓自身にも障害がおこって腎性の急性腎不全に陥ってしまいます。
  2. 腎性急性腎不全
    腎性の急性腎不全というものは腎臓自体に異常おきたため腎機能が低下したもので、ただ単に急性腎不全といえば腎性のものを指すと考えていいです。急性腎不全は機能障害をおこした原因によって虚血性と腎毒性の二つに分けて考えるの普通です。
  3. 腎後性急性腎不全
    腎後性急性腎不全腎後性の急性腎不全というのは腎臓は尿を産生するが、尿路に異常があって尿が排出されなくなったためにおきてくる腎不全です。これは、子宮癌、直腸癌、膀胱癌などの浸潤、転移による圧迫や、手術過誤による尿管の結紮、切断などでおこってくる尿管の通過障害をはじめ、前立腺肥大による尿道の閉塞など色々な尿路の異常によって起こってきますが、手術的操作により治癒させる事が出来る急性腎不全であって、この点が他の急性腎不全と大いに異なります。

急性腎不全はどんな場合に発生するか
次に腎性の急性腎不全について話を進めていきます。腎性の急性腎不全は通常は通常虚血性と腎毒性の急性腎不全に分けています。それでは、それらは具体的にはどんな場合に発生するのでしょうか。

1)虚血性急性腎不全
まず虚血性のものであるが、これはショックなどで腎臓への血流が低下した場合、もしくは腎動脈の閉塞などで腎循環が途絶えた場合に発生してきます。このような状態を輸液、輸血、昇圧剤で短期間のうちに改善してしまえば前に述べた腎前性の急性腎不全として尿毒症に陥ることなく回復しますが、この状態が長時間持続すると腎実質の障害をおこして、いわゆる腎性の急性腎不全となってしまいます。それではどのくらいの時間、腎臓の血流が阻害されると急性腎不全になるのでしょうか?これには色々な条件が関与するので一概にはいえませんが、完全な血流遮断で1時間以上、血圧が80mmHg以下で2時間以上も放置されると急性腎不全が発生する頻度が高くなります。
このような状態がおきる理由として、ショック時などには体内の血流分布に異常が起こり、脳などへの血流は比較的良好に保たれるが、腎臓への血流は犠牲にされ、極端に減少してしまう事も関係しています。(表1)


いずれにしても、このような虚血状態がおきていると腎臓の中でもっともやられやすい尿細管が障害されたしまいます。急性腎不全の事を急性尿細管壊死と呼んでいるのは尿細管の病変が組織学的にもっとも目立つ所見だったからです。なおこの虚血性の変化はネフロンに散在性に出現しますが、尿細管基底膜の障害はおこさないといわれてます。

 

 

2)腎毒性急性腎不全
腎毒性の急性腎不全は体内に入った毒物が尽蔵を傷害するもので、四塩化炭素などの毒物が有名ですが、その他各種の農薬でもおきるし、治療に使用する抗生剤や血管撮影などに用いる造影剤などでもときおり発生する事が知られています。
これらの腎毒性の急性腎不全は毒物が糸球体から濾過されて近位尿細管で濃縮されるため、全ネフロンのこの部分が強く傷害されるといわれています。腎毒性の急性腎不全には他から注入した薬剤ばかりでなく、筋肉の広範ば挫滅により筋肉内のミオクロビンが流出して腎障害をおこす、いわゆる挫滅症候群や、異型輸血による急性腎不全も中に含める事が出来ます。

 

3)その他の原因による急性腎不全
以上述べた虚血性と腎毒性の急性腎不全は腎性急性腎不全の代表的なものですが、そのほかこれらとは多少異なったものも知られています。それは免疫反応が関係した急性糸球体腎炎や血管内凝固症候群などに由来する急性腎不全です。
血液は固まろうとする動き、すなわち凝固作用と、一旦凝固した血液を溶かそうとする働き、すなわち線維素溶解、略して線溶という現象が巧みにバランスをとって出血や血管の閉塞を防いでいます。このように血液は非常にダイナミックなものですが、何かのきっかけでこのバランスが崩れると血管内で凝固がおこり毛細管が閉塞してしまいます。血管内凝固症候群はこのような状態をいい、このように血管内で血液が凝固すると、体内にある血液凝固に必要な因子が使用されて欠乏してくるたね、非常に出血しやすい状態が生じます。これを消耗性凝固異常と呼んでます。この血管内凝固症候群の引金をひくのは敗血症、エンドトキシン血症などが多いですが、その他m悪性腫瘍や妊婦にも起こりやすい事が知られています。
このように血管内で血液凝固がおきると、血栓が糸球体にひっかかってこれを閉塞してしまい急性腎不全となります。重傷の場合はいわゆる皮質壊死となり、急性腎不全でありながら腎機能が回復せず、そのまま慢性の腎不全となってしまいます。
尿素やクレアチニンがそれほど上昇してないうちから出血傾向の強い急性腎不全は血管内凝固症候群が原因となっている可能性が高いので、血小板や血液中のフィブリン分解産物、血沈などを調べて必要に応じてヘパリンを使用しなければならない。